欧州フードビジネス事情視察2



7月1日(木)

 6:30のモーニングコールで目を覚ますと、窓を開けて、イタリアの朝の空気を胸一杯に吸い込みます。・・・やはり、目の前の ビルが邪魔ですね。気温は、イタリアの方が日本よりも緯度が高いため、それ程暑くはありませんが、若干湿度があるようです。  今日は一日、食材工場を視察する予定です。朝食をとってバスに乗り込み、まずはミラノより南東へ約1時間、パルマにある生ハム 工場の見学に出発です。

 パルマ産の食材といえば、パルメザンチーズ(パルミッジャーノ・レッジャーノ)も有名ですが、やはり生ハム(プロシュート) でしょう。  生ハムには、1970年に品質保証の規定が設けられ、現在指定されているのは、パルマ、サン・ダニエレ、フリウリ、ヴェネト の4つの地域のみ。中でも、パルマ産の生ハムは有名で、豚もも肉の膝の部分のみを使い、熟成期間は一年以上なのだそうです。

 えぇっと、バスに乗ってから2時間ほどになりますが、まだパルマに着きません。どうやら高速道路で事故があったようで、迂回して 下道を走っているのですが、大渋滞。しかも生ハム工場は郊外にあるため、パルマ市街を縦断しなければならないのです。  1時間以上かけて、ようやくパルマ市街を抜けたバスは、今までの遅れを取り戻すかのようにスピードを上げていきます。車窓から通 り過ぎる田園風景をボンヤリと眺めていると、一際目立つお城を発見。

 『トレッキアッラ城』という名のこのお城は、15世紀頃に建てられたもので、代々のパルマの有力者達の住居だったようです。総石 造りではありますが、石柱で空間が多くとられており、それほど重々しい感じはなくて暮らしやすそうです。ただ、高台にあって不便な ために、実際には丘の下に別邸が造られ、そこで実際の政務は行われていたようです。

 「なかなか着かないなぁ」と思いながら外を眺めていると、工場が目の前に見えてきました。しかし、バスのスピードは落ちません。 「あの工場じゃないんですか?」などと参加者さんとお話ししている間にも、バスはどんどん先に進んできます。  すると突然、バスがブレーキを踏み、ゆっくりとUターン。・・・やっぱり、さっき通り過ぎた工場が目的地じゃん!  丘の中ほどにある生ハム工場に到着したのは、ほとんどお昼前。さっそく工場の中を案内してもらうことになりました。

TANARA GIANCARLO(タナーラ・ジャンカルロ)  http://www.tanaragiancarlo.it

 『タナーラ・ジャンカルロ』があるパルマ市南部のランギラーノは、ジェノバの海からの湿気を含んだ風が、山を越えて適度に乾燥し、 自然乾燥のプロシュートを製造するのに適している地域なのだそうです。  工場の外観はもちろん、工場内もとても清潔です。やはり自然乾燥させるために、余計な異物や香りが生ハムにつかないように、細心 の注意が計られているのでしょう。何だか緊張してしまって、息を潜めるように説明を聞いてしまいます。

 毎週1回、牧草のみで育てられた豚もも肉が工場に入荷されると、室温0〜4℃・湿度99%の倉庫で3日間熟成します。そして、もも 肉をプレスして水と血液を抜いた後、岩塩で塩漬けをして、室温0〜4℃・湿度60%の倉庫で19〜21日間熟成します。

 余分な塩を取った後、常温・湿度60%の倉庫にもも肉を移動させて、更に14〜16日間ねかせます。その後、骨を取って形を整える と、重さによって『S・M・L』の3種類に分けて、28〜60日間じっくりと熟成させます。熟成が終わると、途中で浮いてきた塩を1 8〜20%の食塩水で洗い、3〜6日乾燥させます。

 常温・湿度15%の倉庫に移し、最長180日間、吊して熟成させます。ここまで来ると、もも肉がかなり乾燥して硬くなってきている ので、むき出しになっている肉の部分に、米粉・黒コショウ・白コショウを塗りつけて、肉を軟らかくします。

 150日ほど更に熟成させた後、生ハム協会の人が検査にやってきます。検査方法は、機械でのデータ+職人の目。検査官は、馬の骨を 生ハムに差し込み、匂いで熟成の度合いを判断するそうです。この検査に合格すると、遂に生ハムの完成です。ここまでで約1年間かかり ます。ただし、この検査後も最長2年まで熟成させることもあるようです。

 出来上がった生ハムは、骨付きのまま出荷されるだけでなく、骨を抜いたり、スライスしたりと、加工もされています。骨を抜く作業を 見せてもらいましたが、実に手際がよく、あっという間に骨なし生ハムが出来上がります。聞いてみると、この男性は1日に400本以上 の骨を抜いているのだそうです。

 こうして出来上がった生ハムは、堙たり15ユーロ(約2,100円)。標準的な大きさの生ハムは7圓曚匹僚鼎気ありますから、 ひとつ15,000円にもなります。・・・それにしても高いですねぇ!  この工場で造られた生ハムは、イタリア以外にも、アメリカは日本に輸出されているようですので、ひょっとすると口にする機会がある かも知れませんね。

 このように、1時間以上、丹念に説明して頂いたのですが、さっきから気になることが。工場から人の気配がどんどん無くなっているの です。骨抜きの実演をしてくれた男性社員も、知らぬまに姿を消しています。  というのも、イタリアでは12:00〜14:00までお昼休みで、社員の皆さんは、いったん家に帰って食事をするのが普通なのだそ うです。受付にも事務所にも社員の方は誰もいないため、お礼の言葉も言えぬままに工場を後にしました。

Taverna del Castello(タヴェルナ・デル・カステッロ)  http://www.tavernadelcastello.it

 タナーラ・ジャンカルロで生産された生ハムを食べられるということで、昼食は『タヴェルナ・デル・カステッロ』というトラットリア で取ることになりました。場所はなんと、先程のトレッキアッラ城です。バスがお城まで入れないので、丘の下から歩くことになりました が、急な坂道を5分ほど登っていかなければならないので、けっこう大変です。  テラスでの食事は、やはり眺めも良くて気持ちよいものです。暑さの方も、テントがあるためそれほど気にはなりません。乾杯の後、さ っそく運ばれてきた生ハムを食べてみることにしました。しっかりとした食感の生ハムは、噛むたびに熟成された肉の味と香りが口の中い っぱいに広がります。しかも、表面にシットリと油が浮かんでいる事からも解るように、決して噛みごたえがあるわけではなく、だんだん と口の中でトロける感じなのです。そのあまりの美味しさに、大皿に盛られていた生ハムが、あっという間になくなってしまいました。

 昼食を終え、さらに南東へと走り続けるバス。午後の目的地は、モデナ。フェラーリやマセラッティなどの高級車で有名なモデナでの目 的は、バルサーミコ酢工場の見学です。

 『バルサーミコ』とは、イタリア語で『香料・芳香』の意。古くは『香りで病を治す』、転じて『薬草』という使い方もあったみたいで す。  ブドウから造られるバルサミコ酢はイタリア各地で生産されていますが、『アチェート・バルサーミコ』(芳香のある熟成酢)と呼ばれ るものは、モデナとレッジョ・エミーリアの2ヶ所でしか生産されていません。  モデナ特産のバルサミコ酢は、11世紀にこの地域を支配していたエステ家が他国への贈り物として使っていたらしく、価格は高級ワイ ンなみなのです。

 La Tradizione S.c.a.r.l(ラ・トラディツィオーネ)

 『ラ・トラディツィオーネ』は、先程の生ハム工場とはまるで正反対、レンガ造りの2階建て工場(?)です。バルサミコ酢工場は、そ の製法上、家庭的な小さな工場になってしまうそうです。

 説明を受ける前に、実際に試飲とチーズにつけての試食をさせて頂きました。・・・と、バルサミコ酢はスプーンにほんの一口。「ちょ っと、少なすぎるんじゃないのかぁ?」と思いましたが、説明を聞いてビックリ!  ラ・トラディツィオーネで造られるバルサミコ酢は、12年物と25年物があり、100ml入りの瓶で5,000円から8,000円 もするそうです。  そして、口にしてさらにビックリ!  甘いのです。まるで黒蜜を舐めているようなコクのある甘さ。もちろんお酢ですから、酸っぱいのですが、お酢特有の刺激的な匂いは全 くなく、まろやかな酸味と芳しい『香り』が口いっぱいに広がります。  さて、その製法なんですが、ラ・トラディツィオーネのバルサミコ酢は『トレビアーノ種』という白ブドウから造られます。完熟した白 ブドウの搾り汁を鍋に入れ、95℃で12〜18時間、搾り汁が半分ぐらいになるまで煮詰めていきます。煮詰まる間に、最初は17%ほ どであった糖分が35%にまで濃縮されます。この糖液を、冷やした後で大きな桑の樽に詰めて、2階の部屋へ移動させます。

 夏は暑くて冬は寒い、モデナ特有の気候は、バルサミコ酢を自然醸造するのに適しており、部屋の中には、大小の樽がいっぱい並べられ ていました。  白ブドウの糖液は、2年目にはアルコールへと変化し、3年目にお酢になります。そこからさらに何年も寝かせるわけですが、1年寝か せるごとに、樽の中の10%のバルサミコ酢を次の樽へと移し替えていきます。そうやって、古いバルサミコ酢に新しいバルサミコ酢を足 していきながら、水分を蒸発させ、味を濃縮していくわけです。  こうやって、最大25年かけて作られたラ・トラディツィオーネのバルサミコ酢は、深い甘みと香りを持った透明感のあるお酢となるの です。

 工場見学を終えてモデナを後にすると、2時間ほどかけて、またミラノにまで戻ることになりました。今夜の夕食はリストランテで取る 予定なので、一度ホテルに戻ってジャケットを着用してきました。

SADLER(サドレル)  http://www.sadler.it/

 『サドレル』は、ミシュラン2つ星を獲得した、ミラノの高級リストランテです。オーナーシェフのクラウディオ・サドレル氏は、高級 ホテルで経験を積んだ後、1986年にミラノにサドレルをオープンしました。盛りつけはいたって正統派ですが、料理は細部にまで様々 な工夫や遊びが凝らされています。日本では、六本木ヒルズ内に出店しています。

『ズッキーニのスパゲッティ見立て、トマトの冷たいクリーム、ローズマリー風味』

『モッツァレラを巻き込んだカンパチ、細い糸状のジャガイモの衣をまとって』

『オマール海老と夏の野菜のカラマラータ(指輪上のパスタ)、ポルチーニソース』

『本マグロのローストビーフ仕立て、地中海風』

『コーヒー風味の薄いパイ生地で包んだ仔牛フィレのロースト、パルメザンチーズのムース』

 お皿はとってもシンプルな物で、確かに盛りつけも中央盛りばかりです。しかし、料理自体は、何かに見立てられていたり、 詰め物にされていたりと、こちらを飽きさせません。そして何よりも、肉料理が2品出てくるなど、ボリュームが凄いんです。

『アマローネ種のサクランボのスープ、シナモン風味のアイスクリーム添え』

 さて、楽しみにしていたデザートですが、今回はスープ仕立てです。サクランボスープをスプーンで一口食べると、酸味がかなり強烈 です(バルサミコ酢より全然すっぱい)。しかし、シナモンのアイスクリームの甘みと混ぜ合わせると、とてもまろやかになります。お 腹いっぱいなのに、あっという間に完食してしまいました。

 夕食を終えてホテルに帰ったのが深夜の0時頃。シャワーを浴びると、すぐにベッドへ。今日はとっても疲れました。明日も早いので、 お休みなさい。ネムネム・・・



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